鏡の自分と、目線を合わせる。ーダンスの先生の独り言ー
- うぽる
- 2024年12月12日
- 読了時間: 3分
更新日:2024年12月13日
ー鏡の自分と、目線を合わせて踊る。
とてもシンプルで簡単なことのようでありながら、意外と苦手な生徒さんは少なくない。

沙織さん(仮名・30代)。
「推しの曲が踊れるようになりたい」と、コロナ渦のオンラインレッスン時代をものともせず、もう5年ほど続けてくれている生徒さん。
彼女の踊りはいつも、推しに対する愛情を感じられて、見ていて幸せな気持ちになる。
この方に限らず、レッスン中、鏡の自分と目線が合わせられない人は多い。
じゃあどこを見ているかというと、お手本(先生)だ。
そう、レッスン中、ダンスの先生というのは、生徒からの目線を一身に浴びていたりする。(笑)
振付がまだしっかり覚えられていない。
振付を間違えそうで不安。
鏡の自分を見るのはなんとなく恥ずかしい。
そういう気持ちで、先生をガン見してしまう気持ちはよくわかる。
初めてのレッスンや初めての振付で、そうなってしまうのは当たり前なので特に気にとめないが、
沙織さんは、もう長くレッスンを継続している人だ。
ダンスを楽しむ目的でゆったり続けているとはいえ、やっぱり上手くしてあげたい。
そうなってくると、いつまでも「先生をガン見」状態から卒業できないのは、結構致命的だ。
先生に頼っていると、いつまでも自分で振付を覚えることができない。
どうしても、「横目で見たお手本をマネする速度」だけが速くなる。
でもそれは自分の頭と身体で覚えた振付ではないので、
いつまでも振付が「借り物」になってしまう。
その先の「表現」という、面白いところに進めない。
加えて、「自分の踊りを客観視する」能力が身につかない。
この「客観視」という能力は、踊り……というか、
芸事全般を上手くしていく上で絶対に欠かせない能力だと思う。
自分を直視する。
なんか違う、というポイントを見つける。
それを修正する。
そのサイクルを自分で回せる人が、どんどん上手くなる。
なので冒頭の、「鏡の自分と目線を合わせて踊る」ということが、とても大切になってくるのだ。
ちなみにこれが苦手な人に共通した特徴が、もうひとつある。
レッスン中「なにか質問ありますか?」と問いかけても、何も出てこないのだ。
遠慮とかではない。本当に、出てこない。
自分を見て踊れていない証拠が、ここにも現れる。

沙織さんが所属するクラスでは、あの手この手で
「先生をガン見しない」「鏡の自分と目線を合わせる」ということを
繰り返し練習してきた。
そして先日のレッスン。
いつものように「質問はありますか?」と問いかける。
すると、ついに!沙織さんから質問が出た!
「この部分の足がなぜかいつも逆になってしまう。練習したい」と。
質問される、というのは、講師にとってはとても嬉しいことのひとつだ。
生徒さん自身が、振付に、自分の踊りに、主体的に向き合っているひとつの証拠だから。
そしてそれは、生徒さん自身が、「自分自身に関心を持った」ということでもある。
踊りは、自分自身と向き合うことだから。
鏡はその「向き合い」の営みを、サポートしてくれるだけである。
あなたは、鏡の自分と、目線を合わせられていますか?

※実在の生徒さん・レッスンのエピソードを元にしていますが、個人が特定できないよう、複数のエピソードを織り交ぜるなどして執筆しています。
この記事のライター

うぽる
振付・ダンス総合コーディネートサービス「Dignitive」代表。TRFのSAM氏、ETSU氏らに師事し、13歳でTRFバックダンサー、AAAのバックダンサーとして活動。その後歌手活動やラジオパーソナリティなどを経て、2013年から振付師・ダンス講師に。生徒に向き合う丁寧な指導と高品質な振付には定評がある。
Comments